デーデルライン桿菌とは? 膣の自浄作用を促す働きについて

おりものの量が増えた、ニオイが気になる、デリケートゾーンがかゆいといった悩みを抱える女性は少なくないでしょう。また、膣カンジダや細菌性膣症など女性特有の感染症も、デリケートゾーンのかゆみやおりものの増加の原因となります。

デリケートゾーンに関するこれらの悩みは、「デーデルライン桿菌(かんきん)」という膣内の常在菌が減少することによって起こりやすくなります。デーデルライン桿菌は、膣内の環境を整えるのに非常に重要な役割を果たす善玉菌です。

ここでは、意外と知らないデーデルライン桿菌について詳しく解説します。膣内での働きや女性ホルモンとの関係、デーデルライン桿菌が減少する原因、増やすために必要なことなどをここで学び、ご自身の膣内環境を整えるのに役立ててくださいね。

◆デーデルライン桿菌とは

◎デーデルライン桿菌は乳酸菌の細菌叢(さいきんそう)

女性の膣内には善玉菌も悪玉菌も含めてさまざまな細菌が生息し、細菌叢(さいきんそう)と呼ばれる生きた細菌の集合体を形成しています。その中でも、乳酸菌を分泌して膣内を酸性に保つことで病原菌の繁殖を防ぎ、膣内の環境を整えるのに役立つ菌として注目されているのが「デーデルライン桿菌」です。

デーデルライン桿菌とは、ラクトバチルス属(ラクトバシラス属)を中心とした乳酸菌の細菌叢のこと。1892年、ドイツの産婦人科医アルベルト・デーデルラインによって発見され、彼の名にちなんで名づけられました。

腟壁の細胞(上皮細胞)には、グリコーゲンと呼ばれる物質が蓄積されています。デーデルライン桿菌は、剥がれ落ちた細胞のグリコーゲンを分解して栄養の供給源とし、乳酸を分泌する働きを持っています。

こうして生み出された乳酸によって、膣内はpH4~5前後の酸性に保たれています。多くの細菌の増殖に最適なpHは7前後と中性。デーデルライン桿菌が膣内を酸性に保ってくれることで、膣内での病原菌の発生を抑えることができるのです。

安定した常在菌の細菌叢は、感染の予防にきわめて重要な役割を果たします。デーデルライン桿菌によるこのような働きは、「膣の自浄作用」と呼ばれることもあります。

◎自浄作用が働かないと膣内の環境はどうなる?

デーデルライン桿菌が減少し、膣の自浄作用がうまく働かないと、膣内の常在菌であるカンジダ(カビの一種)が膣内で増殖します。すると、酒粕状、カッテージチーズ状のおりものが増えたり、外陰部や腟内のかゆみが起こったりする膣カンジダ症を発症することがあります。

また、デーデルライン桿菌が減り、その他の雑菌(腸内細菌や皮膚常在菌など)が増えることで起こる細菌性膣症は、灰色~淡黄色のおりもの、腐った魚のようなニオイの原因となります。炎症が強くないためかゆくなることは多くありませんが、消毒や膣錠の挿入が必要になるなど、治療の対象となります。

こうした膣や外陰部のトラブルを防ぐためには、膣内に十分なデーデルライン桿菌が生息している状態を保つことが欠かせません。デーデルライン桿菌は膣内フローラのバランスを整え、膣内環境を正常に保ってくれる、女性の身体にとっては欠かせない善玉菌と言えるでしょう。

◎デーデルライン桿菌と女性ホルモンの関係

実は、デーデルライン桿菌の働きは、女性ホルモンとも密接に関わり合っています。そのメカニズムについて見ていきましょう。

デーデルライン桿菌が乳酸を分泌するのに必要な栄養素であるグリコーゲンは、膣壁の上皮細胞に多く取り込まれています。この膣壁の上皮細胞が増殖するには、女性ホルモンであるエストロゲン(卵胞ホルモン)が分泌されなければなりません。

エストロゲンの分泌量が低下するとグリコーゲンが減少するため、デーデルライン桿菌が増殖できなくなります。すると膣内環境が悪化し、膣内フローラのバランスが乱れて膣内の自浄作用が低下するおそれがあります。

しかし、エストロゲンは生理の周期によって分泌量が大きく変動するホルモンです。排卵期にかけて分泌がピークになりますが、月経が来ると非常に少なくなるなど、1回の生理周期の中でも分泌量に波があります。

また、エストロゲンの分泌量は閉経を迎えると大きく減少してしまいます。それに伴い、デーデルライン桿菌が極端に減少するため、雑菌が増殖して炎症を起こしやすくなると考えられています。

エストロゲン分泌量が変わる生理周期の変動や閉経といった現象は、生きている以上避けることができません。そうした身体の変化にできるだけ左右されることなく、膣内の自浄作用を正常に保つためには、デーデルライン桿菌が減少する要因をできるだけ排除し、デーデルライン桿菌を増やす生活を送れるよう心がける必要があるでしょう。

おすすめ記事:

デーデルライン桿菌が減ったり増えたりする要因は?

◎デーデルライン桿菌が膣内から減る要因

膣内の環境を正常に保つのには欠かせないデーデルライン桿菌ですが、さまざまな要因によってその数が減ってしまうことがあります。デーデルライン桿菌が減少する主な要因について、ここで学んでおきましょう。

・エストロゲンの量が低下することによる膣内環境の変化

前の章でも述べた通り、エストロゲンの分泌量低下に伴うグリコーゲン減少によって、デーデルライン桿菌が膣内から減ってしまうことがあります。エストロゲンの分泌量低下は、月経や閉経のほか、妊娠によっても起こります。

また、エストロゲンの分泌量の低下は、睡眠不足やストレスによって女性ホルモンのバランスが変化することでも引き起こされます。女性の身体は想像以上にデリケート。睡眠不足だけでなく、食生活の乱れや人間関係などのストレスによっても、女性ホルモンのバランスは乱れやすくなります。

女性ホルモンのバランスを整えるためには、十分な睡眠、心身ともにリフレッシュする機会を持つことが欠かせません。ストレスの要因をできるだけ取り除き、疲れを溜めない生活を送るようにしましょう。

・抗生物質の使用

抗生物質とは、細菌による感染症に対して処方される薬のこと。細菌の増殖を抑制する働き(除菌作用)や、直接細菌を殺す働き(殺菌作用)を持ちます。

抗生物質は、女性にとってメジャーな疾患である急性膀胱炎の治療にも使われます。女性の場合は男性と比較して尿道が短く、腸内の細菌が膀胱内に侵入しやすいため、急性膀胱炎にかかったことがあるという方も少なくないでしょう。実際に、女性の5人に1人が急性膀胱炎にかかり、頻尿や排尿痛、残尿感、血尿などの症状に悩まされたことがあると言います。

抗生物質は身体に害を及ぼす菌を退治してくれる心強い薬ですが、残念ながらデーデルライン桿菌のような善玉菌まで殺菌してしまう場合があります。すると、膣内フローラのバランスが崩れ、カンジダなどの悪玉菌が増殖しやすい膣内環境となります。膀胱炎などの治療で抗生物質を使用したあと、膣カンジダ症にかかりやすくなるのはそのためです。

・デリケートゾーンの洗いすぎ

デリケートゾーンのケアに注目が集まっている近年。ニオイ対策やアンダーヘアの脱毛を行うほか、専用ソープでの洗浄などを日常生活に取り入れる人も増えています。

確かに、デリケートゾーンを清潔に保つには毎日のケアが大切です。しかし、誤った自己流ケアを続けているとかえって膣内フローラのバランスが乱れてしまい、ニオイやかゆみの原因になってしまうこともあります。

よくある誤ったケアの1つが、ビデやシャワーによる膣の奥までの過剰な洗浄です。せっかく膣内の環境を正常に保ってくれているデーデルライン桿菌のような善玉菌まで洗い流されてしまい、膣内の自浄作用を弱めてしまうことがあります。

専用のソープやオイルを使い、外陰部のみをやさしく洗うようにしましょう。また、おりものは膣内の雑菌を体外に排出する働きを持つため、おりものの多さに神経質になるあまり過剰に洗いすぎるのは禁物です。おりものの量が気になる場合、ニオイや色に異変が見られる場合は、自己流ケアで対処しようとせず婦人科で相談しましょう。

・性交渉

性交渉が膣内フローラのバランスの乱れ、デーデルライン桿菌などの善玉菌の減少につながることも。性交渉を行うと、女性の外陰部などに付着した雑菌が膣内に侵入することがあるためです。

とりわけ、外出後に手を洗う、シャワーを浴びるなどせずに性交渉をしたり、唾液をローションの代わりに使ったり、複数人と性交渉をしたりするのは、膣内環境を正常に保つには望ましくありません。雑菌がより侵入しやすくなり、細菌性膣症などを引き起こす可能性が高まります。

性交渉の前には必ず手を洗う、シャワーを浴びるなどして身体に付着した雑菌を減らすのがおすすめ。挿入をスムーズにするには、専用のローションを使いましょう。

◎女性ホルモンの分泌を促し、デーデルライン桿菌を増やす生活習慣

デーデルライン桿菌はストレスや寝不足、抗生物質の使用、デリケートゾーンの洗いすぎ、性交渉など、ちょっとした要因によって減少しやすい菌です。膣内フローラのバランスを保ち、膣内の環境を整えるには、デーデルライン桿菌が増えやすい生活を意識的に送る必要があるでしょう。

では、デーデルライン桿菌を膣内に増やすには、具体的にどのような生活を送ればよいのでしょうか。ここでは、女性ホルモンの分泌量が増えやすくなる生活に焦点を当てて説明します。

・バランスの良い食生活を意識する

栄養バランスの偏った食事は、女性ホルモンのバランスを乱す原因の1つと言われています。肉や魚だけでなく大豆製品からもタンパク質をしっかり摂り、野菜も多めに摂りましょう。野菜を豊富に使った味噌汁など、和食もおすすめです。

・睡眠時間を十分に確保する

睡眠が不足すると女性ホルモンの分泌が減り、膣内環境の乱れにつながるおそれがあります。人によって必要な睡眠時間は異なりますが、毎日7時間以上の睡眠を取ることが1つの目安です。ただし、翌朝すっきり目が覚めるのであれば、7時間以下でも質の良い睡眠を取れている可能性があります。

一方、朝から身体が重くだるさを感じる場合は、睡眠時間が足りていなかったり、睡眠の質が低かったりするかもしれません。身体の深部の体温が高いと眠りにくくなるため、寝つきが悪い人は、床に就く1時間以上前に入浴を終えるようにしましょう。

入浴の際は、39~40℃のぬるめのお湯にゆっくり浸かるのがポイント。身体をリラックスさせる副交感神経が優位になり、眠りにつきやすくなります。また、パソコンやスマートフォンから発せられるブルーライトは脳を活性化させるため、眠る前に浴びると寝つきが悪くなります。就寝1時間前からは使用を控えるようにしましょう。

・ストレスを解消する

ストレスを受けて自律神経の調子が乱れると、女性ホルモンのバランスにも大きく影響が及びます。女性の身体はストレスに左右されやすいことを意識し、できるだけストレスを減らすことが大切です。

とはいえ、仕事や家事育児に追われたり、人間関係の悩みを抱えたりするなか、ストレスを感じずに過ごすのは難しいという人が大半なのではないでしょうか。そんな人は、趣味に没頭したり、ウォーキングなどの適度な運動で気持ちよく身体を動かしたりして、ストレスを解消する時間を意識的に作るようにしましょう。1日数十分であっても気分がすっきりし、溜まったストレスを軽減できます。

・入浴後や就寝前にストレッチをする

身体が凝り固まって血行が悪い状態のままでいると、女性ホルモンの分泌が滞ることがあります。お風呂のあとや就寝前にストレッチで全身をほぐし、血行をよくしましょう。

全身の血行がよくなると冷えや疲れの予防にもなります。運動が好きな方はぜひエクササイズやヨガも習慣的に取り入れ、健やかな身体作りを心がけましょう。

ただし、元々運動が苦手な人の場合は、無理なエクササイズがかえってストレスになることもあります。余計なストレスを溜めないためにも、ご自身のペースで無理のない運動を続けるようにしましょう。

◎乳酸菌の経口摂取でデーデルライン桿菌の増加をサポート

膣内のデーデルライン桿菌を増やすには、ラクトバチルス属の乳酸菌を口から摂取する方法も有効です。経口摂取した乳酸菌が膣内粘膜に定着し、膣内を酸性に傾けて雑菌の繁殖を防ぐことは、すでにさまざまな研究によって認められています。

これを知って「口から入った乳酸菌がどうやって膣内に届くの?」と不思議に思う人は少なくないでしょう。実際に、どのような経路をたどって膣内へ到達するかは現在も明らかになっていないのです。「直腸から肛門、会陰部を通じて膣へ到達する」という報告もありますが、真偽は定かではありません。今後の研究によるメカニズムの解明が待たれます。

・「乳酸菌Rosell-11&52」のサプリメントで膣内環境を整えるのもおすすめ

ラクトバチルス属の乳酸菌には、実に100種類以上の菌が存在します。人間の身体にとって有益な菌から、どのような効果があるのか不明の菌まで、多種多様な菌がラクトバチルス属の乳酸菌に含まれます。

その中でも「ラクトバチルス・ラムノーサス Rosell-11」と「ラクトバチルス・ヘルベティカス Rosell-52」(以後乳酸菌Rosell-11&52)は、女性のデリケートゾーンにとって良い働きをすることが報告されている善玉菌です。

乳酸菌Rosell-11&52は、プロバイオティクス(健康上有益であると考えられる生きた微生物)の1つ。腸内や膣内細菌叢の自然な構成菌であり、腸および女性の健康に関して有益であると証拠が示されている菌種です。 乳酸菌Rosell-11&52は膣上皮細胞に定着し、膣内の糖を消費して乳酸を産生します。その乳酸が膣内環境を酸性に保つことで、中性~弱アルカリ性を好む悪玉菌である病原体の感染・増殖を抑制してくれるのです。

◆まとめ

デーデルライン桿菌は膣内環境を正常に保ち、おりものの増加やニオイの原因を断つのに欠かせない善玉菌。女性ホルモンの分泌を促す生活を心がけるほか、サプリメントなどで乳酸菌Rosell-11&52を経口摂取することでも膣内フローラのバランスを整えることができます。ぜひ普段の生活に取り入れてみてください。




監修:海老根真由美さん
1997年埼玉医科大学医学部卒業。埼玉医科大学総合医療センター 総合周産期母子医療センター母体胎児部門にて病棟医長を就任。
2013年6月からは、白金高輪海老根ウィメンズクリニックを開業。 所属:日本産科婦人科学会・日本母性衛生学会・日本周産期・新生児学会・周産期メンタルヘルス研究会