膣内環境とは?
女性の膣内には様々な細菌が住んでおり、ひと所に群がっていることから「膣内細菌叢」と言います。「腸内細菌叢」をお花畑になぞらえて「腸内フローラ」と呼ぶのと同様に、「膣内細菌叢」も「膣内フローラ」と呼ばれています。
健康な女性の膣内フローラの75%~95%を占めるのがデーデルライン桿菌と呼ばれているラクトバチルス属の乳酸菌です(※1)。
膣内における、これらラクトバチルス属の数的優位性は腸内フローラに比べても卓越しています。
このデーデルライン桿菌は膣内のグリコーゲンを栄養にして乳酸を出し、膣内環境をいつも弱酸性に保つことで外部からの雑菌の侵入を防ぎ有害細菌の繁殖を抑制しています。
これを膣の自浄作用と言います。
このことからデーデルライン桿菌を善玉菌、有害細菌を悪玉菌と総称することもあります。
ゆえにデーデルライン桿菌は膣内環境を正常に保つために重要な役割を担っていると言えます。
<膣内細菌の例>
・善玉菌・・・デーデルライン桿菌(膣内に存在する乳酸菌の一種:ラクトバチルス属)
・悪玉菌・・・ガルドネラ菌、大腸菌、モビルンカス菌、カンジダ菌など
膣内環境が乱れると?
デーデルライン桿菌はとってもデリケートな乳酸菌です。
風邪をひいたときの抗生物質の服用やストレス、過労などのちょっとしたことでも減少してしまいます。
また、女性ホルモンのバランスの乱れなどで膣内のグリコーゲンが減少すると膣の自浄作用に重要なデーデルライン桿菌による乳酸の産生量が少なくなります。
すると膣内の酸性度が下がることで悪玉菌が増殖し、それが原因となって膣内環境が悪化しオリモノ(帯下)異常や気になる臭いを放つようになるのです。
このデーデルライン桿菌が優勢の膣内環境から種々の悪玉菌が過剰に増殖した状態を細菌性膣症といいます。
細菌性膣症の約半数は無症状であり、自覚症状としても帯下感の訴えは軽いと報告されています(※1)。
膣内環境の乱れを放置すると?
膣内環境の乱れを放置すると、オリモノが灰白色で水っぽくなったり、魚臭を放ったりという不快症状が起こります。
さらに、オリモノの量が増えたり、外陰部の痒みが出たりすることもあります(※2)。
膣内環境の乱れによって増殖した悪玉菌が上行し子宮頚管を通過すると子宮内膜炎、さらに上行すると卵管炎・骨盤腹膜炎などがおこる危険性があります(※1)。
また、早産や低出生体重児など妊婦に対する悪影響の可能性も高くなります(※1)。
HIVの感染率が高まるとの海外の報告例もあります(※3)。
膣内環境を正常に保つためには?
悪臭が気になって、膣内を洗いすぎてしまう人も多いようです。
しかし、これは悪玉菌だけでなく善玉菌までも洗い流してしまい、膣内フローラのバランスを崩す原因となります。過度な膣洗浄は避けましょう。
また抗菌薬使用で良くなりますが、再発も少なくありません。
これが、長年にわたり深いお悩みになる理由なのです。
膣内フローラのバランスを保つには、過度な洗浄を控えることはもとより、心身全体の健康も大切です。
良質な食事や睡眠など規則正しい生活を送ることはもちろん、ストレスを溜めないことや、セックスのタイミングに気をつけること、また乳酸菌の経口摂取が膣内フローラを整えるという報告もありますので、気になる症状を感じたら摂取してみても良いと思います。
おすすめ記事:※1日本性感染症学会誌/ガイドライン 2016.27(Suppl.1):83-86.
※2 家研也 他 日本プライマリ・ケア連合学会誌. 2012. 35:157-161
※3 Myer L, et al., Lancet Infect Dis. 2005.5:786-94